[読書メモ]『情報機関を作る』

p87
日本の官庁では、二年か三年でポストを交代させるのが慣例となっている。しかし通常の人事異動のつもりで、深く考えないままエージェントを運用する工作官を交代させたならば、どうなるか。かならずと言っていいほど、深刻な問題を引き起こすであろう。工作官の引き継ぎは、きわめてむずかしいことだと心得ておいたほうがよい。[…]エージェントの運用は、リクルートした工作官に長期間、担当させることを基本とすべきだ。

p131
報道記者は、カバーとしては大変、便利な、職業であり、全体主義国では情報機関員がよく利用している。だが自由主義国で情報機関員がそれを使うことに対しては、本物のジャーナリストから強い批判が生じるだろう。

p154
公園は、接触場所に適しているが、ただ夜は避けること。アメリカでその時間に公園にいるのは、犯罪者か精神異常者とされている。

p178
情報の収集と情報の保護はコインの裏表の関係にあることを頭に置かなければならない。

p178
他国から情報提供を受ける場合には、ギブ・アンド・テイクの原則が必要となるのだが、そのほかにも防諜体制が築かれているかどうかが重要視される。

p183
自己陶酔に浸るのは個人の勝手でも、新聞が社会の公器であることを忘れてもらっては困るのだ。

p183
わが日本民族は、情に流されやすいという特質を持つ。

p187
「それはそれ、これはこれ」という大人の振舞いができないのだ。

p187
何事につけ議論となると、とかく二項対立の愚に陥るという世の通弊がある。

p187
大切なのは、縄張り争いを慎んで大きな目的を見すえることだ。

p227
大きな組織が健全性を保つためには、どうしても外部の目が必要になる。

p235
なによりも、官庁の前例や慣行にとらわれない人、換言すれば柔軟で深い思考力を備えている人、そして常に国益という座標軸を手元においている人物がふさわしい。/加えてヒューミントに携わるためのセンスを持っていることが望ましい。ここでいうセンスとは、豊かで鋭い国際感覚、物事を適確に判断できるバランス感覚、後述する人材を採用し育成する卓越した組織管理能力、などである。知らない専門的なことは、センスを生かして勉強すればよいのである。

p241
もっとも外交官は、駐在国に関係事項を登録するのが国際的なルールとされている。だから当の工作官は、赴任したときから相手側の監視を受けていると考えなければならない。これが、外交官をカバーとすることの短所となるわけである。

p253
意外に知られていないが、尾行はむずかしい職人技に属する。小説やドラマのように、手軽にやってみるような仕事ではない。各国の情報機関は、それぞれが苦心の末に独自の尾行方式を編み出しているのである。