[読書メモ]『インフラグラム』

p38
デュシャンがパイプをくゆらしながら、チェス盤に頬杖をつきながら見つめつづけたのは、変化し続ける脳の状態かもしれない。

p49
選択肢が増えれば増えるほど、選択肢の全体を把握するのに時間がかかる。ところが、決定するための時間が増えるわけではない。当然、人間の眼にも限界がある。つまり選択が広がるほど、注意を向ける先は限られてくることになる。

p65
[デジタルカメラは] 2000 年代にかけて低価格化と高画質化が徐々に進んでいったが、一般に普及するのは 2005 年前後で、日本ではこの年にデジタルカメラとアナログカメラの出荷台数が逆転したと言われる。

p68
カメラのデジタル化と並んで平成の重要な出来事は、iPhone の登場とそれに続くスマートフォン市場の爆発的な成長だ。写真史的にも、むしろこちらのほうがより長く続く衝撃となるだろう。これによって、カメラは常に身につけているという意味でポータブルよりもウェアラブルな性質をもち、同時に写真は瞬時に拡散され、共有される傾向を帯びることになった。ここから写真はインフラストラクチャーとしての性格を強めてゆく。

p75
認知心理学者の下條信輔は「使い方はわかっているが、動作の原理がわからない」という状態を「ブラックボックス」と呼び、現代社会が丸ごとブラックボックス化しているのではないかと指摘した。

p75
テクノロジーの進歩が不可避的に呼び込むブラックボックス化

p79
2003 年の反イラク戦争のデモというのは、当時、史上最大の反戦デモと言われていた。ヴェトナム反戦などと比べものにならないほど、多くの人間が短期間に動員されたと言う。

p99
モンタージュ写真のパラドクスは、選択の数を増やしすぎると目撃意識が混濁し、ひいては記憶内容の崩壊を引き起こしかねないところにある。

p116
二重存在論の考えから、わたしは当初「不思議の国のアリス」の中に登場するチェシャ猫を思い浮かべた。アリスが道を聞くと、ニヤニヤ笑いながら次第に消えていく。実体は消えても、笑いだけが残っている。キャロルは数学者であり、そして写真家でもあったが、この「チェシャ猫の笑い」というのは、写真が発明されて、一般的に撮られて初めて出てきたアイデアではないかという気がする。ユーモアではあるが、新しい視覚体験として出てきたような気がするのである。

p176
イギリス映画が得意とする舞台劇