[読書メモ]『「文系学部廃止」の衝撃』

p73
Sonyに限らず、与えられた価値軸の枠内でウォークマンのような優れた商品を作るのは、日本の、特に工学系の強みでしょう。しかし iPad / iPhone の例が示すように、価値の転換をするというのは概念の枠組みそのものを変えてしまうことで、与えられたフレームのなかで優れたものを作るのとは別次元の話です。大きな歴史の流れのなかで価値の軸そのものを転換させてしまう力、またそれを大胆に予見する力が弱いのは日本社会の特徴であり、それが、日本が今も「後追い」を余儀なくされる主な原因だと私は思います。

p75
新しい価値の軸を生んでいくためには、現存の価値の軸、つまり皆が自明だと思っているものを疑い、反省し、批判を行い、違う価値の軸の可能性を見つける必要があるからです。

p83
大学で学ぶ知的エリートは、学問的な思考の規則を獲得することにより、国家の単なる使用人ではなく、むしろその自律的な主体とならなければなりません。

p110
大学は、人類的な普遍性に奉仕する機関であって、国立大学といえでも国に奉仕する機関ではない。

p141
日本の大規模総合大学は、欧米の大学と比べてみてもこうしたトップダウンの仕組みが弱く、権力は分散的で、かなりのことがそれぞれの個別組織の「自治」に任されています。その結果、大学全体の統治の仕組みは企業的ではないのはもちろん、官僚制的ですらなく、むしろ「封建的」(様々な荘園がそれぞれ自治権を持って縄張りを守っている)と呼んだほうがいい体制で、学内緒組織の利害調整に膨大な時間的労力を要することになるのです。この調整労力の大きさが、日本の大学を身動きできなくさせている最大の要因です。

pp217-218
かなり多くの学生が、最初になすべき「問題意識ないしは研究目的の明確化」を飛ばして、二番目の「研究対象の特定」から始めがちです。しかし、優れた論文を書くためには、研究対象を決める前に、あるいは研究対象を決めるのと同時に、問題意識が明確化されていなければなりません。/注意しておきたいのですが、この場合、「問題意識」とは、自分がなぜこの研究をやりたいと思うようになったかという個人的動機ではありません。多くの学生が、「君の問いは何なの?」と聞くと、長々と自分のパーソナル・ヒストリーを話し始め、「だから私はこの対象が大好きなのです」と答えたりするのですが、個人的「動機」と学問的「問い」は別です。

p220
そもそも「先行研究がない」とい言ってしまえるのは、自分の研究目的についての理解が浅いことを意味します。[…] 先人たちの先行研究は読み尽くせないくらい存在するのです。

p221
論文の出来の成否を決定するのは、[…]「先行研究の批判的検討」から[…]「分析的枠組み(仮説)の構築」をどうやって導き出すかという手腕にかかっています。

p237
危機の時代において価値を生むのは、既存の固定観念や秩序、領域、分野を創造的に越境していく力です。